2025-11-28

C O N T E N T S
- 業務効率化ではなく、「判断のタイミング」を変えたDX
- 属人業務を“構造”として置き換える――データによる運営の見通し化
- データが行動を変えるとき、現場は自律を取り戻す
児童デイサービスの現場で進んだDXの取り組みが示したのは、「デジタル化」ではなく「判断の再設計」というテーマだった。
有限会社シーエスエフが支援したこのプロジェクトでは、複数拠点で行われていた配車業務――つまり、誰が・どの車で・どの児童を・どの順番で送迎するかという日々の判断――を、データによって置き換えた。
Excelによる配車表の調整は、各拠点で最も負荷の高い業務だった。入力や調整は人手で行われ、配車の確定は前日夜にずれ込み、家庭への連絡やスタッフのシフト調整も連鎖的に遅延していた。
表面的には“配車の自動化”に見えるが、実際には運営全体の意思決定構造を再構成した取り組みである。
1. 業務効率化ではなく、「判断のタイミング」を変えたDX
だが、問題の本質は「作業時間」ではなく「意思決定のタイミング」にあった。
配車が確定するのが遅いため、後続の判断もすべて“後追い”になる。これは単なる作業効率の問題ではなく、運営の思考構造そのものの遅延を意味していた。

この遅延を断ち切るため、シーエスエフは送迎ルート・児童住所・スタッフ勤務情報などを基にした自動配車ロジックを設計。業務データを統合することで、1週間先の配車案を確定できるようにした。
これにより、業務フロー全体の“起点”が変わった。
デジタル化が生んだ最大の効果は、作業短縮ではなく、意思決定の前倒しだったのである。

2. 属人業務を“構造”として置き換える――データによる運営の見通し化
児童デイの運営では、「支援品質を落とさずに効率化する」ことが常に難題だ。
支援対象の児童数、家庭の都合、スタッフの勤務形態など変数が多く、個別判断が積み重なっていくため、結果的に“属人の塊”となりやすい。
DXの狙いは、こうした属人的判断を排除することではない。
むしろ、人が判断する前提を整えることにある。
シーエスエフが導入したWebシステムは、出欠・送迎・記録といった日常業務のデータを一元化し、判断のベースとなる情報を即座に参照できるようにした。
これにより、「現場がどこまで見通せるか」が一変した。“業務効率化”というより、“構造の透明化”と言ったほうが正確だろう。
データによって現場が自ら判断できるようになり、本部は「指示」から「支援」へと役割を転換。拠点間の調整は情報共有の自動化によって滑らかになり、属人構造の再現性を持った“運営モデル”に置き換えた。

3. データが行動を変えるとき、現場は自律を取り戻す
DX導入の効果は、最終的に「人の行動」に現れる。
児童デイの現場では、配車確定が早まったことで、スタッフが前倒しで準備や家庭連絡を行えるようになった。一見小さな変化に見えるが、これは「行動の起点」が変わったことを意味する。以前は「配車表が来てから動く」だったのが、今は「データを見て自ら動く」に変わった。
その結果、職員同士の調整負荷が減少し、支援時間が確保され、
心理的な安定感が生まれた。
つまり、データ化は人の裁量を奪うのではなく、判断のための負担を減らし、自律性を高める方向に作用したのである。これは、児童デイに限らず、多拠点を抱える介護・教育・福祉分野に共通する再現性の高い構造変化だ。
属人から仕組みへ――。
その移行を支えるのは、単なるテクノロジーではなく、「人が正しく判断できる余白をつくる」思想である。

DXの本質とは、“スピードを上げること”ではない。
むしろ、“判断を前にずらすこと”にある。
このプロジェクトが示したのは、デジタルによって「見通す力」を取り戻した現場の姿だった。
連絡先(パートナー企業)
有限会社シーエスエフ
担当:加野
https://www.creative-solution.jp/index.html