AIチャットボットの真価は「導入」ではなく「運用」にある──日本企業の現状データから読み解く、2025年のAI活用課題

2025年現在、AIチャットボットはもはや珍しい存在ではない。企業のデジタル化や問い合わせ対応の効率化が進むなか、一定の導入は当たり前になった。だが、現場の実感として「うまく使いこなせている」と言える企業は決して多くない。

株式会社インゲージの「チャットボット調査報告書2025」によると、業界別導入率はおおむね1〜4割程度。金融・保険業界では36%と高い導入率を誇る一方で、医療・福祉分野では8%にとどまる。導入が進んでいる業界でも「自動化が思ったほど進まない」「回答の品質が安定しない」といった課題が上位に挙がっている。

【図1業界別チャットボット導入率】金融・保険業で36%、医療・福祉では8%。導入が進む一方で満足度(NPS)は−3と伸び悩む。

つまり、導入数は増えているのに、“使えるチャットボット”になっていない。その背景には、「AI化」よりもはるかに難しい“運用化”という壁がある。

チャットボット市場は拡大を続けている。矢野経済研究所の調査では、国内市場規模は2027年に約454億5,000万円に達する見込み。さらに世界では、調査会社Mordor Intelligenceによると、2024年時点で約701億ドルの市場が2029年には2081億ドルへと成長し、年平均成長率(CAGR)は24%を超えるという。

【図2 日本のAIチャットボット市場規模の予測】 2027年に約454億円規模に成長すると予測されている

市場は右肩上がりだが、課題は“中身”にある。多くの企業で導入されているのは、依然として「ルールベース型」と呼ばれるタイプだ。これは、あらかじめ登録された質問と回答を照合して応答する方式で、FAQ対応やマニュアル問合せなどに適している。

一方、AIを活用した「機械学習型」や、ルールと学習を組み合わせた「ハイブリッド型」はまだ少数派だ(出典:Cloud Circus「AIチャットボット市場の成長性」)。この構造が、「AIチャットボット」という言葉のイメージと実態のズレを生んでいる。

【図3 チャットボットの種類の比較】 現在の多くのチャットボットはルールベース型。AI型・ハイブリッド型の活用が今後の鍵になる。

つまり、「AIチャットボット」と呼ばれていても、実際は“AIがほとんど働いていない”チャットボットが多いのが現状だ。

インゲージの調査では、導入企業の推奨度(NPS)はマイナス3ポイント。つまり「導入して良かった」と胸を張れる企業は、まだ少数派だ。主な課題は次の三つに整理できる。

【図4 AIプロジェクトの3つの課題】 


① 自動化率が上がらない:AI精度の問題よりも設計面の課題が大きい。

② 運用負荷が高い:FAQ更新や誤答修正などメンテナンスが減らない。

③ 効果を測定できていない:投資効果を可視化できず、社内での改善が進まない。

チャットボットは「問い合わせ対応」だけでなく、社内の就業規則、福利厚生、イベント案内など、内部情報の共有にも使えるようになっている。AIチャットボットを“社内ルールブック”として使えば、社員は人事部門に質問しなくても必要な情報を瞬時に確認でき、管理部門の負担も軽減される。

株式会社クラフトレイルの「ワカるーる」や導入支援サービス「ツクるーる」は、社内ルールやFAQを自動で読み込み、回答できる仕組みであり、今後のAI活用の方向性を示している。

AIチャットボット市場は拡大し続けているが、導入効果を実感している企業はまだ少ない。だが逆に言えば、運用を見直すだけで効果が出る余地が大きいということでもある。

【図5 AIチャットボット導入ステップ】 AIチャットボット導入の目的は“導入”ではなく“活用”。社内ルール整理と運用体制が成果を分ける。

インゲージ調査では、導入企業の約7割が月額10万円以下でチャットボットを運用している。この価格帯であれば、中小企業でも十分に導入可能だ。重要なのは、“入れること”ではなく、“活かすこと”。社内のルールや知識をAIに渡す仕組みを整えれば、AIチャットボットは単なる問い合わせツールから、「社内知識の共有基盤」へと変わる。

【図6 月額コスト分布(n=463】

AIチャットボットを導入している企業も、これから検討する企業も、いま必要なのは「新しいツール」ではない。自社の情報整理、FAQ設計、運用体制の見直し――つまり、“AIを使いこなす土台づくり”だ。

クラフトレイルでは、AIチャットボット「ワカるーる」の無償モニターを3か月限定で募集中(取材協力企業2社まで)としている。実際の社内ルールやイベント情報を読み込み、AIがどう答えるのかを体験できるプログラムだ。(2025年10月現在)

AIチャットボットは、導入して終わりではない。導入した瞬間から、企業の知識をどう活かすかの勝負が始まる。

引用出典一覧

・株式会社インゲージ『チャットボット調査報告書2025』
・矢野経済研究所『AIチャットボット市場の成長性』(Cloud Circus掲載)
・Mordor Intelligence『Chatbot Market Share Analysis 2024–2029』(GII経由)

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