2025-10-02

近年、「人手不足」に起因する報道は急増しています。転職関連の広告が日常的に流れ、新聞やネットニュースには「人手不足関連倒産」の見出しが並びます。団塊世代の大量退職が進み、外国人労働者の受け入れをめぐる議論も活発化するなど、状況は一部の業界に限られた問題ではなく、日本経済全体の経営課題へと拡大しています。
求人を出しても人が集まらない、あるいは入社しても早期に離職する。欠員が埋まらないまま残された人員の負担が増加し、現場の遅延や品質低下を引き起こす。その結果、売上や利益の減少へと直結する。こうした連鎖が「倒産要因としての人材不足」を顕在化させており、とりわけ建設・運輸・介護・宿泊・飲食といった労働集約型産業で顕著です。
1. 社外環境の要因?
外部環境は自社で制御できません。そのため「自社にどの要因がどの程度の影響を及ぼすか」を特定することが不可欠です。
- 最低賃金の引上げ:対応が遅れるほど競合他社と比較して募集力が低下。
- 時間外労働の上限規制:建設・物流・医療などに適用拡大。残業による吸収が困難となり、必要人員の確保が前提化。
- 採用難の構造化:有効求人倍率は高止まりし、「求人>求職」の構造が継続。採用に時間を要する。
- 労働人口・価値観の変化:生産年齢人口は減少傾向。コロナ以降はワーク・ライフ・バランス志向が強まり、過度な負荷より継続可能な働き方が選好される。
業種別の特徴
- 建設:高齢化進行により資格保持者・監督層へ業務が集中。
- 運輸:上限規制+高齢化により欠員が輸送能力へ直結。
- 介護・宿泊・飲食:介護は求人倍率が高水準で推移。宿泊・飲食は非正規依存度が高く、シフト欠員が即営業に影響。
2. 社内環境の要因
外部環境に対しては受動的にならざるを得ませんが、社内設計は能動的に変えられます。採用・定着・業務設計を組み合わせ、欠員リスクを構造的に抑制する必要があります。
- 採用長期化・コスト増:広告費・紹介料・人事工数が増大し、欠員期間の機会損失が拡大。
- 早期離職・流出拡大:入社後3か月・6か月・1年といった節目での離職が再募集・再教育を誘発。他業界の「未経験可」求人増加により流出先が拡大。
- スキル偏在:資格やキーパーソン依存が強い場合、1名の欠員が直ちに納期・供給量へ波及。
3. 構造変化(5年前との比較)
過去の「努力で補える」時代は既に終わっています。経営陣から現場リーダーまで、環境が構造的に変化したことを共通認識とする必要があります。
- コロナ禍前後の一時的な採用緩和は終了し、恒常的な採用難が再来。
- 時間外労働規制の適用拡大により「残業吸収」が困難化。
- ワーク・ライフ・バランス志向の高まりにより「継続可能な職場」が優先される傾向が定着。
従来の「退職してもすぐ補充可能」という成功体験を前提とした運営は、もはや成立しません。
4. メカニズムのまとめ
人手不足が経営に及ぼす影響は「単発の欠員」ではなく、
欠員 → 遅延 → 売上・利益減少 という連鎖にあります。
- 外部要因:賃金上昇・規制強化・労働人口減少
- 内部要因:採用長期化・離職再発・スキル偏在
これらが重なったとき、現場停止や業績圧迫が顕在化します。
したがって解決策は「採用強化のみ」では不十分です。
受け入れ設計(定着施策)・業務設計(標準化・多能工化)・自動化(デジタル/AI活用) を同時並行で推進することが、現実的かつ持続的な対応策となります。
第2部では、このメカニズムを数値化・言語化し、貴社の現在地を可視化します。」